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2004.09.04

モラル・ハザード

梶井厚志「戦略的思考の技術~ゲーム理論を実践する」(中公新書)より

モラルハザードという言葉はよくモラル(道徳)のハザード(危機的状況)と解されることが多い。
しかし、この本によると、もともと保険業界用語であるこの言葉について、

モラルハザードとは相手の好みや性質がわかっていても、相手の行動が観察できないために生じる問題である
としている。

例として


  • 支払いが大きい自動車保険に加入した人は、そうでない場合よりも運転に注意を払わないかもしれない
  • 自動車の盗難保険に入った人は、そうでない場合よりも車の駐車場所に気を使わないかもしれない

したがって保険会社としては、被保険者が不注意になるだろうということを考慮に入れて
保険料を高くせざるを得なくなり、最悪の場合には保険制度自体が成り立たなくなるという
危機的状況になるであろう。保険そのものがリスク回避というインセンティブを低くしている。

この場合、問題が不注意運転や反道徳行為を行う人(加入者)の道徳や倫理にあるのではなく、
加入者の行動が観察できない(例えば、わざとぶつけたのかどうかがわからない)ために、双方の利益が
実現しなくなるようなインセンティブ契約を結んだ点にあるということである。

その他のモラルハザードの代表例としては、

  • 顧客から製品に対してクレームがついたので、担当の部下を謝りに行かせたいが、先方でどのように謝るかが観測できないので、無理して時間を作って自分で謝りに行くという非効率的な行動をとる
  • せっかくパートの人を雇っても、指示したとおりの仕事を本当にこなしているかどうかがわからないため、結局自分ですべてチェックするはめになる。
  • 食にこだわるあまり野菜は有機農法のものしか使いたくない人にとって、買ってきた野菜が本当に有機農法で作られたかどうかを観測するのが難しいため、無理をして自分で野菜を作り始めたりする。
  • 恋人の素行が気になるため、出張先でもケータイにしつこく電話を入れて、時間と電話回線の無駄使いをしたりする。

「モラル・ハザード問題の解決のためには、何らかのインセンティブ契約を考え、観測可能でない行動をとるインセンティブを相手に与えることが有効」とするが、そもそもインセンティブを与える対象は観測可能であることが条件なので、観測可能でない行動をとった結果、観測できるようになるものを対象とするというところがこの問題の難しいところだ。う~ん、何だか書いてる方が混乱してきたぞ...

例えば、健康づくり教室などで「がんばって健康づくり活動を行ったら、表彰する」というよりは「がんばって3キロやせたら、表彰する」というインセンティブ契約の方がモラル・ハザード解決に近い。こういう「見える成果」に対してインセンティブが与えられなければ相手のやる気も期待できないということか。

組織における人事評価についても

人事部のブラックボックスの中で行われた給与査定が通知されるだけであったり、あいつは仕事ができるという社長のツルの一声で昇給が決まるようだと、モラルハザードを解消するインセンティブにはならない

これに関連して、沖縄県庁における新たな人事評価制度試験導入のニュースを思い出した。

本間勝人事課長は「現行の人事評価は職員の理解、納得が不十分なままで機能していない。試行で精度を高め、06年度から本格実施したい」と述べた。
 同制度は業務目標の達成度をはかる業績評価と、判断力や企画・計画力など7項目からなる能力評価がある。自己申告による評価を基に評価者の上司と面談を重ね、来年1月中旬をめどに、それぞれの目標の設定や進行状況、達成度などを評価シートにまとめ、人事課と本人に内容を伝える。

「見える成果」に対してインセンティブを与え、そのしくみをガラス張りにするという点では、
この試みはモラルハザードの解消につながる可能性がある。一歩前進。

モラル・ハザードについては青山学院大学国際政治経済学部の瀬尾助教授がわかりやすく解説しているので参照されたい。


もうすぐ30000番。

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