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2011.03.27

被災地域公衆衛生復興計画

避難生活が長期化するにつれ、地域の公衆衛生をいかに復興
させるかという課題が表面化してきます。

この場合の「公衆衛生」には、医療の確保も含まれ、現在
何らかの治療を受けている人が適切な治療を受けることに
よって、合併症を防ぐということが優先されるはず。

医療機能がどれだけダメージを受けているかについては、一つは
台帳に基づいた医療機関の状況把握が必要。

公衆衛生ネットというサイトに掲示されている

震災地域の全医療機関名簿(病院と診療所含む)(国際医療福祉大学 高橋泰教授提供)

を見ると、被災地医療機関の状況が

  • 壊滅状態
  • 被害甚大

に分類されている。が、この台帳(電話番号つき)をもとに
フォローして行けば、時間がたつにつれて
  • 一部診療可能
  • 患者受け入れ可能
という分類の機関もできてくるはず
(もちろんそのために必要な支援内容も調査する)

これを2次医療圏ごとに調査を続け(2週間おきくらい)
医療機能の復活状況を把握する。調査にはマンパワーが必要

もう1つの視点は、避難所ごとの医療需給状況調査。
もともと投薬を受けていた人が、震災前の状況に戻って
いるかどうかを調べる。でもこれは避難所に入って言って
直接聞かないとわからない話なので、これもマンパワーが必要

この避難所は6割の人が、服薬を受けているとか、ここは
まだ4割とか数値化できれば、短期的な目標も立てられ、
達成できたかどうかも評価できる(のではないか)。

避難所ごとに調べる意味は、今の状況では避難所を基本的な
コミュニティーの単位と見た方が対策も効率的に行える
はずだから。

もう一つ、震災前に保健所を拠点に行われていた公衆衛生
活動については、震災や避難所設置で発生する新たな業務を
加味した上で、基本的にはBCPの考え方に沿って、

  • 止めてはならない業務
  • 工夫すれば中断可能な業務
  • 後回しにしても構わない業務

に分類して、優先業務に人と貼り付けて行く方法がある
(全国保健所長会ホームページBCP策定ガイドラインPDF参照)

たとえば上の業務のうち「マンパワーが必要」と書いた医療機能
に関する調査部門は「支援チーム」が中心になって調査を行い、
地元の保健所や県庁と対策を協議する(地区保健医療計画をもとに)。

そして、もともとの保健所公衆衛生業務については、被災地を所轄
する保健所あるいは近隣の保健所が中心になるという役割分担も
あり得るはず。


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2011.03.26

避難所分析(非常食編)

缶詰時報という業界雑誌があるらしい(初めて知った)

非常食には、ベビーフードがいいらしいということも
新型インフルエンザ対策で習った覚えがあったので、
調べ直してみた。
非常食としても役立つ缶詰・瓶詰・レトルト

その中に
『被災地の食事と缶詰・レトルト食品-新潟県中越地震を経験して-』
缶詰時報2005年5月号掲載 (PDF)

という論文がありました。

震災から2週間たっても、避難所ごとに状況が異なることが
報じられている。水や熱源、そして食料の供給状況によって
ステージ分類して、効率的に分配できるとか、あるいは、
支援者がこれから行く避難所の状況に応じて、自分の食糧を準備する
ということに役立てばいいですね。

抜粋して概要を紹介します。


5.被災地の食事の条件

  • 被災地の食事は,何時,誰がどのような状況下で食べるかによって求められる条件が異なっていた.
  • これらの条件が合わなければ,配給されても食べることが出来ないこともある.
ステージ別の非常食
被災地での食事を具体的に検討する場合は,水と熱源の有無によって食べることができる食品が 変わる.水と熱源,食糧の入手経過によって分類すると次のようになった.

第1ステージ (調理用の水も熱源も入手できない段階)
被災地では,震災直後にライフラインが遮断され,電気,ガス,水道の供給が停止した. また, 家屋の倒壊,火災の発生などにより避難を余儀なくされるため,食事をめぐる状況は最悪となる. このような状況下で,飲料水だけでなく調理用水 も熱源の入手も困難であるため, 調理済みで開封するだけで食べることができる食品が求められた. また,この時点では被災地の外からの救援物資などの入手も不可能であり, 食べることのできる食品は災害前から被災地周辺で備蓄・流通していた食品となり, この状況はライフラインが遮断された範囲内すべての被災者が対象となる.

第 2 ステージ (お湯の入手が可能な段階)
次の段階では,電気の復旧やカセットコンロなどでお湯を作れる第 2ステージとなる. 給水車などから入手した水を温めることで,多くの配給された備蓄食品 (アルファ化米,カップ麺,フリー ズドライ食品など)を食べることができるようになった. しかし,この食生活ができるのは,食品のほかに調理用の水と熱源と 調理用具(鍋,やかんなど)を入手できた被災者に限られた.

第 3 ステージ (救援食料が入手できる段階)
この段階では,避難所で救援物資を受け取ることが可能となる. 中越地震の被災地では,最初に おにぎりやパン,ペットボトル入り お茶などの支給を受けることができた. つぎに自衛隊やボランティアが中心となり炊き出しが行われたが, 屋外で簡単な調理によって食べることのできるメ ニューに限られ, 衛生管理の問題,調理器具の入 手の難しさ,水不足などによる野菜の洗浄などが 思うようにできないなど多くの課題が指摘され た. しかし,避難所内では火災の危険があるため調理ができるところは少なく, 電子レンジの使用も電気容量の不足などのため使用できなかった避難所が多かった.

非常用食品の条件
  1. 調理済みで開封するだけで食べることができ る
  2. ライフラインに頼らず,おいしく食べやすい 食事である
  3. 常温保存が可能で個別包装である
  4. 喫食対象者が明確でニーズに対応している
奥田和子 食の科学2003. 7(No. 305)より

この他、中越地震被災者へのアンケート結果で 最初の3日間の食事で食べにくかった食べ物として
  • パン(菓子パン含む)→飲み込みにくい、ぱさつく
  • おにぎり→冷たくかたい
  • ビスケット、クラッカー→飲み込みにくい
とか、義歯を持っていない高齢者は固いものが食べられなかった等 参考になる記載があります。

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2011.03.25

震災情報サイト sinsai.info

できるだけ不要なネット使用も控えようと思っているのですが
問題の種類が増えていくにつれ、ネット等さまざまな情報が
飛び交っていて、その集約や整理が必要と感じます。

そういう様々な情報をまとめようとしているサイトがあった。
震災情報サイト sinsai.info

オープンストリートマップという地図上に情報をプロットして行く
方法のようです。詳細はOpenStreetMapのサイトを参照。

OpenStreetMapは、自由な地図をみんなの手で作るプロジェクトです。 東北地方太平洋沖地震では、その地域の方でなくても、 それ以上に遠くに住んでいる方が、情報の整理、被災地の地図を 衛星写真からつくることを通じて、専門家による救援を後方支援できます。

レポートは誰でもできる(ただし職場のPCではうまく
見れなかった)

石垣市が被災した子どもたちの就学支援をすることを発表
したというニュースをレポートしてみた(地図に出るかなぁ)

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2011.03.20

避難所で「赤タミフル」処方可能に

新型こわいこわいと準備を進めていた2008年11月に

赤タミフル 青タミフル 銀リレンザ

という記事で紹介したように、行政備蓄用タミフルは
市場流通用のそれとはパッケージングが違います。

しかもこの「赤タミフル」は国が定める新型インフルエンザ
対策行動計画に基づく目的以外の使用及び譲渡はなりませぬ

という売買契約で自治体は購入しています(だから安い説)

このたびの震災で、厚労省は製造販売業者から同意をもらって、
行政備蓄用のタミフル・リレンザを

避難所生活をされている被災者の方々のインフルエンザ
罹患予防及び治療用に限り、使用することができる

という通知を出しました。

これで避難所で拡大が懸念されているインフルエンザに対する
備えが進んだことになります。
(参考)
インフル 被災地での流行懸念 全国の患者急増


ところで、この赤タミフル処方に関する費用負担や流通経路は
どうなっているのでしょうか。

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2011.03.17

心の被ばく

JCO東海村臨界事故の際は、致死線量の被ばくをした重傷被災患者から 心の被ばくをした被災患者まで約3000人にも及んだ。そして、大多数の 被災患者が後者の放射線という五感に感じないものにパニックとなり、 コミュニティセンター、病院等に殺到した。家族全員で来られた方、 農家で栽培している野菜を持ってこられた方、ペットを抱えて来られた方、 今にも失神寸前と思われるほど震え怯えて来られた方、我先にと列を乱し パニック状態の被災患者等、今でも忘れることができない。 (放射線と緊急被ばく医療(平成14年静岡県放射線技師会講演より抜粋 =国立東京災害医療センター放射線科麻生智彦先生)

今のマスコミ報道は、そのつもりはないかもしれないけれど、
見る人を釘付けにして、不安を煽る結果になっていると思う。
心の被ばくという視点も必要。

不安解消のために報道の時間が長くなればなるほど、不安を
増長するというサイクルなのかもしれない。バランス考え
ましょうね。

必要なのは
現場で何が起きているかを知らせること
(新型インフルエンザ、夏の那覇市立病院の教訓から)

同じ資料から、スクリーニング検査部分だけ抜粋

放射線災害緊急時医療の流れ

  • 被災者の受け入れ
    • 受け入れは時間外救急入り口とする
    • 汚染の可能性が高い患者は、放射線量測定室にて身体汚染検査
    • 汚染の可能性の少ない患者は、スクリーニング測定室にて表面汚染のスクリーニング
    • 高度の汚染に伴い重傷の傷病の被災者は、救命処置を優先に治療を行う

  • 身体汚染検査とトリアージ
    • 測定結果によりトリアージタッグをつける(賛否両論ある)
    • 汚染検査を行う服装は、マスク、帽子、手袋、白衣または作業衣、靴下、靴を着用し、測定用具はポケット線量を携帯。GMサーベイメーター、筆記用具、被爆線量記録、ガーゼ、サランラップ、ビニール袋、膿盆、ペーパータオル等を用意する
    • GMサーベイメータの検出部にサランラップまたはビニール袋をかぶせ、身体表面から1〜2㎝離してゆっくり走査させながら測定する
    • 頭髪、顔面、口角、鼻口、両肩、手掌、手、背、足の順に走査測定し、衣服、帽子、靴等も行う
    • 口角、鼻口は十分に行い、規定値を超えていればスミア法を行う
    • 測定は2人1組で行い、1人は記録を正確に行う
    • 規定値以上の被災者は除染処置を行い、再度測定を繰り返し、除染効果を確認する

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2011.03.14

多数出る遺体の処理に関する考え方(WHO)

海岸で1,000体ほどのご遺体が見つかったというニュース
を見るにつけ、その取り扱いはどうすんだろうと思う

新型インフルエンザの準備段階で
遺体が多数出る新型インフルエンザ
という記事を書いたし、厚労省の埋火葬ガイドラインに沿って
多数の収容するための袋を購入した自治体も多いはず。

それはご遺体からの感染を防ぐためのものであるけれども
今回の大震災のようなシチュエーションとは違うことを
教えてもらった。それは

ご遺体から感染することはない

ということです。
出典はWHOのdisposal of dead bodies in emergency conditions

ざっと訳してみた。



  • たくさんの遺体が発生するという事態は、その社会的政治的な衝撃を考えると、無視できない
  • 緊急の援助チームは地域の精神的ケアに関与し、死に対する地域の伝統に配慮すべき
  • ご遺体が感染症(腸チフスやコレラ等)のリスクを高めるという考えは誤りである
  • ただし、水源を汚染した場合には食中毒や胃腸炎の原因になることはある
  • 愛する人々との死別や目撃をする経験は精神的におおきなトラウマとなる
  • だからご遺体を速やかに集めて、それを目撃することや臭気による苦悩から住民を解放することは大切なこと
  • ただしだからと言って、埋葬や火葬を早める必要はないし、死亡に関する記録や、通常死亡後に行われる葬祭を省略してもいいということでもない
  • relief workerは遺族の葬祭に関する希望を尊重しなければならない。このことは災害のために精神的に傷ついている人々の慰めになるから。
  • ご遺体を集める作業に従事する人々のストレスも考慮した支援も必要
  • ご遺体を安置する安全な場所を確保することが重要である
  • そこはご遺体を見ることができる場所や故人の所有物や記録を閲覧できる場所を備えてほしい
  • それが達成できることはまれであるが、温度は4度Cになる場所に安置する
  • 処理をする人は手袋やガウンを来て消毒せっけんで手を洗うこと
  • ストレッチャーや手袋(皮、ゴム)、ガウン、ブーツ、キャップ等は最低限揃えておきたい
  • ご遺体を早期に識別してタグをつけることが大きな課題である
  • 死亡に関する記録は死亡数の把握や死因の分析上も重要なことである
  • そのための安置場所は、ご遺体1000体につき2000平米以上必要である
  • 識別は、特に身元時間がかかる作業で、特に親族も巻き込まれた場合は見分けることが困難
  • 生存者は、身元判明のために多くのご遺体を見せられることもあり注意が必要
  • 識別するための場所と、死別を惜しむための場所は分けるべきである
  • 識別できれば死亡診断書を発行し、記録を残して、タグを着ける
  • 共同墓地のようなところに埋葬したり、多くのご遺体を火葬してはいけない
  • 埋葬は、宗教や文化的にそれを阻害する要因がない限り、
    緊急時のご遺体の処理に好んで用いられる方法である。
  • 埋葬する場所は、地域住民と合意の上決定するが、
    住宅地からは500m以上の距離を置き、地下水源からは
    50m離れた場所等の条件を考慮する必要がある。
  • 人口?10000人あたり少なくとも1500平米以上が必要
  • 他の宗教区域の居住地とも区別される方がいい
  • 埋葬には最低地下1.5mの深さが必要で、土壌で1m以上は
    覆う必要がある。個人のお墓は手掘りでもいい
  • 棺がない場合はプラスチック製のシートで覆う
  • 埋葬の方法は地域のやり方と一致すべきである。
  • 火葬するなら1体あたり300kgの燃料(木材)と煙による汚染を考慮→居住地帯から少なくとも500m離れた風下で。
  • もし遺体が感染症にかかっていた場合は、専門職により処理が行われるべき
  • 消毒のために石灰を用いるよりは、塩素系の消毒剤が効果的
  • 感染症の心配がある場合は、移送用の車も消毒し、人々にはご遺体との接触が感染の機会になることを気づかせるべきです(以下感染予防に関する項目は略します)

重要事項として

  • 死亡者よりも生存している人を優先に考える
  • ご遺体による健康リスクに関する神話を捨てる
  • 識別してタグをつける
  • ご遺体の取り扱いに関する適切なサービスを提供する
  • 身元のわからないご遺体を多数処理したりしない
  • 遺族の希望を聞き入れる
  • 文化的宗教的配慮
  • ご遺体からの感染から住民を守る


今の東北地方で上の「原則」がどれだけ適用されるかは
わかりませんが、考え方の整理のために残します。

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2011.03.06

空気の流れvs結核

昔の公衆衛生看護婦(公看さん=現在の保健師)たちは結核患者の
家を訪問したら、まず「窓開けましょうね」と言って換気をして
風上に座ってお話をするようにしたという話を聞いたことがある。
結核は空気(飛沫核)感染するので、空気の流れを読まんといけない。

ということで、先週の研修での病院建築の専門家の講義メモより抜粋。

詳細は、平成20年度の厚生科学研究の報告書(PDFはこちら)をどうぞ。

結核を想定した感染症指定医療機関の施設基準に関する研究(平成20年)

病室
  • 原則として個室とすること
  • 自由に行動できる特定区域をもうけることが望ましい
  • 前室を有していることが望ましい
  • 易感染性を収容する病室には前室をもうけること
  • 部屋の広さはトイレ、シャワーを除き15平米以上が望ましい
  • 病室または特定区域内にトイレ、シャワーを設けること
病室の窓、扉
  • 病室の開口部はできる限りふさぐこと
  • 病室の扉は自閉式とすること
空調換気設備
  • 原則として陰圧を保持すること
  • 適切な換気を行うこと
  • 患者と安全に接することができるように空気の流れる方向を設定すること
    吸気口と排気口の位置関係
    • ベッドの近く(窓際)から外へ排気して、入り口側から取り入れる流れだとOK
    • しかし一般の建物では逆(窓際近くで温度管理するため)
    • 調査した16区画中11区画が逆の流れだった
    • これでは「どうぞうつしてください」という構造
  • 空気の流れが施設内の清潔区域から汚染区域へ流れるようにすること
  • 全排気方式とすること
  • 空調を再循環方式とする場合はHEPAフィルターをつけること
  • 独立した換気システムとすること
  • 直接屋外へ排気してよい。場合によってはHEPAフィルターを設置すること
  • 排気口は建物の外気取り入れ口や病室の窓から離すこと
  • 給排気装置が停止した場合の対策を講じること
給水、排水
  • 病室内に手洗い設備を設けること
  • 手洗い設備の水栓は手の指を使わないで操作できるものが望ましい
  • 排水を適切に処理すること
検査等
  • 結核患者が使用する検査室(気管支鏡等)は陰圧とすること
  • 採痰ブースは空気がもれない閉鎖空間とすること
運用に関する基準
  • 結核患者を収容している間は窓を開けないこと
  • 陰圧状態を毎日点検し記録をすること
  • 手技はできる限り当該病室で行うこと
  • 長期間の隔離を強いられる患者の療養環境に配慮すること
  • スタッフや家族が出入りする際はN95マスクを着用すること
  • 患者が病室外へ出る場合はサージカルマスクを着用させること
  • 特定区域外の部屋を使用する際は一般の患者と同時に入室させないこと
  • HEPAフィルターの適切な保守管理を行うこと
  • 院内感染対策委員会による適切な運用評価をすること

ナース控え室でずっと換気扇が回っている結核病棟があったけど、
それでは空気が控え室に流れ込んでくるという事例もあったそうです。

その他、Tipsとして
陰圧(空気流の方向)の確認方法として、ベビーパウダー等でも代用
できるということです。

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2011.03.05

国際結核セミナーの復命(長いかも)

参考にどうぞ。


3月3日 国際結核セミナー (主催:結核研究所) 「結核ハイリスクへのアプローチ」

特別講演ではWHO西太平洋地域事務局の結核ハンセン病課の
大菅医官が、「WHO西太平洋地域の結核対策ー現状と新5ヶ年戦略」
と題して講演。この地域の課題として、未発見の潜在結核患者が多いことや、
多剤耐性結核が多いことが挙げられた。国別では中国、フィリピン、韓国、
ベトナム、カンボジア、ラオス、モンゴル、パプアニューギニアが高蔓延状態
となっており、新5ヶ年戦略でも重点的に、結核診断の強化や質の高い治療を
提供する等の対策が取り組まれることになっている。結核対策は以前は
途上国と日本を含める先進国では中味がちがっていたが、現在は同じ課題を
抱えているために、先進国で行われている対策をいかに途上国に広げていくか
というチャレンジである。


続いて行われたシンポジウムは「結核リスクへのアプローチ」と題して、
立場の異なる7名のシンポジストが発表を行った。

まず、結核研究所の森亨名誉所長がリスクグループの考え方について説明した。
世界的には、HIV感染のほか、糖尿病、TNFーα阻害剤、そしてたばこ
リスク要因とし注目を浴びているとし、特にたばこは今の我が国の結核患者
のうち、男性では23%、女性では6%で合計17%が喫煙により過剰に
発生しているとした。
またたばこと関連が深いCOPDでは、発病や死亡のリスクが高まることが
わかっている。生命予後が悪くなる理由としては、

  • 基礎疾患としてのCOPDが病像を悪化させる
  • COPDのために結核の診断が遅れることが原因となる

ことが指摘されている。最後に、IUATLD(国際結核肺疾患予防連盟)の
ガイドブックに乗っているABCforTBを紹介した。
すなわち、結核対策従事者は
  • ask問診:喫煙状態、受動喫煙の状況を繰り返し聞く
  • brief advice:禁煙、家庭内無煙化の勧め
  • cessasion suppor:t必要な支援の提供 を行うべき

としている(数分間の時間があればできる簡単な介入)


続いて東京都福祉保健局の宮本謙一氏によって東京都の取り組みが発表され、
特徴としては、

  • 全国と同じように高齢者の罹患率が高い(特に80歳以上は増加傾向)
  • 大都市特有の問題として、住所不定者等の罹患率が高い、
  • 外国人の結核が増えている
ことがなどが紹介された。
その対策としては、
  • 高齢者を発見するための普及啓発(医療、介護サービス提供者へ)
  • 住所不定者を発見するための重点対象者健診の実施+接触者健診の強化
  • そして両者に有効なDOTSの推進と地域連携体制の確立
を行っている


結核研究所臨床疫学部の内村氏は、都市結核の疫学状況として

  • 罹患率の地域間不均衡と都市部への集中化
  • ぱっとみて西高東低 大阪湾に面した自治体で高い
  • 20ー49歳では都市部での発症が多い=今起こっている最近の感染による発病が都市に集中

という特徴を挙げた。
この状況は国全体として低蔓延状態になっている欧米諸国ではもっと顕著に
現れるので、日本でも今後の課題となるであろう。
都市内部の結核罹患について分析したところ、失業率や独居率など社会経済的弱者に
関する要因と罹患状況に強い関係があったことを紹介した。
今後は高罹患地域の局在化(スポット化)となることが想定されるとした。


続いて、座長の吉田道彦品川区保健所保健予防課長が、 刑務所の結核すなわち
「矯正施設における結核の発生状況」を報告した。
それによると矯正施設は高いリスク要因を持った人(薬物中毒や外国人など)
が集まる場所として 日本でも最近注目されている。
データでも罹患率は200から300(人口10万対)と高いが、
そのうち8割が入所後に発見されたということである。
日本ではまだガイドラインがないが、米国のガイドラインではリスクの高い理由として、

  • 発病ハイリスク因子が高い人が多く入所
  • 施設の物理的構造(換気悪い)
  • 出入りが多い
が挙げられているとした。


続いて、結核予防会第1健康相談所の田川氏は「外国人結核の現状と対策」と題して、
在日外国人の結核リスクとして

  • 結核罹患率が高い(中国、フィリピン、韓国等)
  • 薬剤耐性率が高い(本国の高い薬剤耐性率)
  • 治療脱落率が高い(言葉の壁、経済的要因等)
という特徴をあげた。
取り組みとしては、啓発資材の提供、新宿区が日本語学校就学生に結核健診を
行ったところ、0.2-0.5%の高い罹患率であったこと、さらに治療途中帰国者への
対応により治療完遂に至ったこと等を紹介した


次に国立病院機構東京病院の永井氏は「HIV合併結核の動向と新展開」と題し、
まず大きな問題としては新規患者のうちの約7割が結核感染したことを契機に
HIV感染に気づいたことを示した。やはり

結核になる前にHIV感染に気づくべきである
と主張した。
東京病院では結核患者に全例HIV抗体検査を実施しているとのことであった。
また、HIV合併結核患者の治療上の問題点として、薬剤の副反応が出やすいこと、
薬剤の相互作用も起こり得ること、さらに免疫再構築症候群もあることから、
「できるだけ抗HIV療法をできるだけ遅らせたい」という意見であった。
米国福祉保健省が結核治療開始後に早期(8週以内)に開始HAARTを推奨
しているが、現実的には結核の治療が落ち着くまで平均12週前後かかるだろうと述べた。


最後のシンポジストとして登壇した国立国際医療センター研究所の慶長氏が、
宿主の免疫応答に影響を及ぼす遺伝要因について研究者の立場から発表した。
現在、ベトナムのバックマイ病院等と共同研究を進めており、研究のアプローチ
としてゲノムワイド(探索的)アプローチ(広く調べる方法)と、候補遺伝子
アプローチ(仮説を検証する方法)を説明した。
リスクとなる遺伝要因を明らかにすることで、病態メカニズムを明らかにして、
リスク自体を減らすための対処方法を見いだす(新規治療やワクチンによる
免疫力の強化)ことが期待できるとした。


さまざまな視点から結核のリスク要因についての新しい知見が紹介され、
内容の濃いシンポジウムであった。


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